大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成6年(ヨ)2414号 決定

静岡市〈以下省略〉

債権者

株式会社アザレ化粧品静岡本舗

右代表者代表取締役

右代理人弁護士

増田堯

大澤恒夫

大阪市〈以下省略〉

債務者

株式会社アザレインターナショナル

右代表者代表取締役

右代理人弁護士

細見茂

千々和博志

坂元洋太郎

主文

一  債権者が債務者に対し、債務者から債務者の標準小売価格の25パーセントの代金額で継続的に債務者ブランドの商品(化粧品類)の供給を受ける契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、債権者に対し、別紙注文品一覧表記載の商品(化粧品類)を仮に引き渡せ。

三  申立費用は債務者の負担とする。

理由

第一申立ての趣旨

主文同旨

第二事案の概要

一 債権者は、債務者が継続的供給契約に基づく発注商品を供給しないとして主文第1、2項掲記の仮処分命令を求め、債務者は、後述のとおり主張してこれを争った。

二 争いのない事実

1 債務者は、化粧品類の製造販売を主たる目的とする株式会社であり、債権者は、化粧品類の販売を主たる目的とする株式会社である。

2 債権者と債務者は、昭和60年1月11日、大略以下の内容の「アザレ販売指定店契約書」を交わし、継続取引を開始した(以下「本件契約」という)。

(一) 債務者は、債権者に対し、債務者の商品(以下「アザレ製品」という。)を継続的に売り渡し、債権者は、これを買い受ける。

(二) 期間の定めなし。

(三) 卸売価格は、債務者の標準小売価格の25パーセントとする。

3(一) 債権者は、債務者に対し、平成6年6月1日、同年7月25日、同年同月28日、別紙注文品一覧表記載の商品を注文した。

(二)債務者は、債権者に対し、卸売価格を債務者の標準小売価格の70パーセントとする旨通告し、右注文に応じない。

三 債務者の主張

1 本件契約上、債務者には、債権者の申込みを承諾する義務や発注商品を納品する義務はない。

2(一) 本件契約には、債権者が所定の義務に違反した場合、契約を自動的に解約とする旨の定めがある(本件契約の特質については主張書面(三)を参照)。

(二) 債権者は、以下のとおり、本件契約に違反した。

(1) 債権者は、債務者が製造販売していない商品(以下「非債務者製品」という。)を、債務者が製造販売している商品であるかのように表示・広告して販売し、債務者の信用を毀損した(契約書2条、10条②、17条④・⑥・⑧、23条)。

(2) 債権者傘下の販売店(C)は、コスメティック東京ことDに対し、アザレ製品を横流しし、債務者やその指定販売店に多大な損害を与えた(契約書10条①~③、17条⑧~⑩)。

(3) 債権者の代表者は、債権者の本店所在地において、アザレの商号・商標を用いて全身美容サロンの経営、化粧品の販売等を目的とする会社である「日本ヘルスメイト株式会社」(以下「日本ヘルスメイト」という。)を設立し、その代表者を兼務するものであるが、同社が経営しているエステルームの従業員に対し、アザレ製品を小売価格の70パーセントで販売した(契約書10条①~③、17条⑧~⑩)。

(4) 債権者の代表者が日本ヘルスメイト代表者を兼ねることは、兼業避止義務達反である。なお、債権者と日本ヘルスメイトの事業は、別個のものではなく、実質的には同一のものである(契約書17条⑥、23条)。

(5) 債権者ないし債権者の代表者は、債務者が許容する限度を超えた美顔営業(いわゆるエステ)や非債務者製品とアザレ製品の抱き合わせ販売・混合使用をし、債務者の信用を毀損した(契約書2条、10条②、17条⑥・⑨、23条)。

3 したがって、本件契約は、(1)遅くとも出荷が停止されるまでに自動的に解約となった、しからずとしも、(2)平成6年6月6日付けの意思表示により解約された(以下(1)と(2)を併せて「本件解約」という)。

四 争点

1 債務者には債権者の申込みに対し承諾義務等があるか(争点1)。

2 本件解約は有効か(以下の事由は、出荷拒否事由足り得るか)。

(一) 非債務者製品の販売問題(争点2)。

(二) コスメティック東京への横流し問題(争点3)。

(三) 従業員に対する割引販売問題(争点4)。

(四) 日本ヘルスメイトとの兼業問題(争点5)。

(五) 美顔営業及び抱き合わせ販売・混合使用問題(争点6)。

第三判断

一 アザレ製品の特質等について

アザレ製品は、安全な化粧品として開発されたものであり、極めて良心的で良質な製品であるが、その使用・管理方法が難しく、その取扱いや使用には相当の商品知識と細心の注意を要するところから、一定の教育を受けたアドバイザーによる対面販売等の独自の販売方法が必要であって、本件契約には、そのための規定が念入りに設けられている(甲1、乙50、59)。このことは、債務者が特に強調するところであるが、債権者においても概ね争わない。

二 争点1(債権者の申込みに対する承諾義務等)について

疎明資料によると、(1)契約書の文言上、債務者は債権者に対し、アザレ製品を継続して売り渡し、債権者はこれを買い受けるものとする(なお、1か月の取引量が30カートンに満たない月が2か月以上続いた場合は解約とする。)とされていること、(2)債権者は、非債務者製品の販売を禁止されているから、アザレ製品の供給が停止されると、営業が成り立ち得なくなること、(3)債権者は、本件契約の履行のため、宣伝・広告、アドバイザーの養成等に多大の負担を強いられていることが一応認められる。[甲1、8、11、12]

これらの事実を考え併せると、債務者は、特段の事情がない限り、債権者からの個々の注文に応じ商品を納品する義務があるというべきである。以下で検討する解約事由(出荷拒否事由)が肯認されない限り、債権者の発注にかかる商品を納品しなければならない。

三 争点2(非債務者製品の販売問題)について

1 疎明資料によると、債権者の代表者が関与する会社において、非債務者製品をアザレ製品であるかのように表示した広告(乙2)をしたことは明らかであるが(債権者は、アザレ製品の販売促進に資するというが、債務者の販売理念に適わぬ行為である。)、(1)広告をしたのは、債権者の販売代理店である日本ヘルスメイトが経営している美顔営業のフェイシャル店であって、債権者であるとはいい切れないこと(このことは、「フェイシャルの際の、今までのお手入れにプラスのサービスです」といった記載からも窺われよう。)、(2)債務者の商品に見せかけるといった意図は全くなかったこと、(3)美顔営業に試験的に使用しただけであり、販売はしていないこと(非売品であることは、右広告中にも明記されている。)、(4)右製品の広告・使用は、債務者の抗議を容れ中止されていること、(5)その後、右製品の広告・使用は一切されていないことが一応認められる。[甲11~13、乙2、4]

2 これらの事実を考え併せると、債権者に債務者主張の解約事由があるとはいい切れず、また、仮に違反の事実があるにしても、本件契約のような継続的供給契約の解消には、取引を継続し難い不信行為の存在等やむを得ない事由が必要であると解すべきところ、右違反の程度は比較的軽微であるから、非債務者製品の販売問題に基づいて本件解約を認めるのは相当ではない。

四 争点3(コスメティック東京への横流し問題)について

疎明資料によると、債務者ないしその取引先が、コスメティック東京への横流しにより多大な損害を被ったことは明らかであるが(ただし、横流しは、債権者傘下の販売店以外からもあった。)、(1)横流しをしたのは、債権者傘下の販売店(C)の弟あるいは債権者の元従業員のEであって(その期間・数量は定かでない。)、債権者は全く関与していないこと(平成5年、6年度の購入量が飛躍的に増加していることは認められるが、右事実から債権者の関与を推認するのは無理である。)、(2)債権者は、債務者の指摘により、実情を調査すべく奔走し、誠実な対応をしていること(債権者にとっても、アザレ製品が横流しされ廉売されることは好ましいことではなく、おざなりな態度をとったとは思われない。)が一応認められる。[甲8、11、12、19~21、乙8~10]

これらの事実を考え併せると、債権者に債務者主張の解約事由があるとはいい切れず、また、仮に違反の事実があるにしても、その程度は比較的軽微であるから(事は重大であり、債務者が出荷を停止した事情は理解できるが、債権者自体の落ち度は「販売管理が不充分」な点のみであって、比較的軽微である。)、横流し問題に基づいて本件解約を認めるのは相当ではない(継続的供給契約の解消については前述のとおり解すべきである)。

なお、債務者は、債権者に対し、平成5年6月の時点において横流し問題があることを通告していたにもかかわらず、債権者においてなんの対応もしなかった旨主張するが、右事実の疎明は十分でない(乙61添付№1のファクシミリの写しは、右事実を窺わせるものであるが、ファクシミリに打刻される日時は容易に細工が可能であるから、同証をもって債務者の主張の決め手となすことはできない)。因に、契約書10条①~③の事由は、損害賠償義務(傘下の販売店との間の連座責任)を定めたものであり、本件解約を正当化するものではない。

五 争点4(従業員に対する割引販売問題)について

疎明資料によると、日本ヘルスメイトの経営するエステルームが静岡県内の従業員に対し、アザレ製品を小売価格の70パーセントで販売していたことはあるが、右販売は、いわゆる社員割引であって、債務者の事業にとってさしたる不都合をもたらすものではないし、債務者の指摘により、直ちに中止されたものと一応認められる。[甲11、20、21、乙4]

これらの事実を考え併せると、債権者に債務者主張の解約事由があるとはいい切れず、また、仮に違反の事実があるにしても、その程度は比較的軽微であるかち、従業員に対する割引販売問題に基づいて本件契約の解約を認めるのは相当ではない(継続的供給契約の解消については前述のとおり解すべきである)。

六 争点5(日本ヘルスメイトとの兼業問題)について

疎明資料によると、(1)本件契約上、債権者の代表者の兼業を禁ずる明確な規定はないこと、(2)日本ヘルスメイトは、債権者の代表者によって昭和53年8月に設立された株式会社であり、美容サロンの経営、化粧品・医薬品・健康食品の販売を手広くしてきたこと(本件契約当時、日本ヘルスメイトの年商は3億6000万円を超えていた。)、(3)債権者は、昭和57年3月に日本ヘルスメイトの化粧品事業部門が独立したものであり、アザレ製品の販売のみを目的として設立されたものであること(したがって、債権者は専業である。)、(4)債権者が設立されて後、日本ヘルスメイトは、フェイシャル店において美顔業務を行い、併せてアザレ製品のエンドユーザーに対しその対面販売を行ってきたこと(この関係で、日本ヘルスメイトは、債権者の代理店になる。)、(5)債務者は、債権者と日本ヘルスメイトの関係及びその営業内容を知り得る立場にあったが、今回の紛争が生じるまで深刻な間題になった形跡はないこと(乙43には、債権者の代表者において完全な専業体制を約したとあるが、債務者がいうような兼業廃止が約されたとは到底思われない。)、(6)債権者には、多数の専業従業員がおり、日本ヘルスメイトとは物的にも人的にも独立した会社であって、兼業を禁止する合理的な理由が見当たらないこと(販売店が法人の場合には、スタッフが充実しているか否かが重要であって、代表者が他の法人の代表者を兼ねているからといって、事業がおろそかになるわけではない。)が一応認められる。[甲1、8、11、12、19~21、乙13の1・2、26]

これらの事実を考え併せると、債権者に債務者主張の解約事由があるとはいい切れないから、兼業問題に基づいて本件契約の解約を認めるのは相当ではない。

七 争点6(美顔営業及び抱き合わせ販売・混合使用問題)について

疎明資料によると、(1)美顔営業を行っているのは日本ヘルスメイトであって、債権者は、アザレ製品以外の販売はしていないこと、(2)日本ヘルスメイトが行っている美顔事業は、債務者の信用を毀損するようなものではないこと、(3)日本ヘルスメイトは、非債務者製品であるクロレラ等の健康食の販売を行っているが、長年続けられてきたものであっていかがわしいものではなく、債務者において、本件紛争が生ずるまで格別問題にしていなかったものであること、(4)また、日本ヘルスメイトのフェイシャル店の美顔コースにおいて、非債務者製品である「プラチナパワーマスク」が使用されているが、アザレ製品との混合使用として禁ずべきものか否か定かでないことが一応認められる。[甲1、8、11、12、19~21、乙13の1・2、26]

これらの事実を考え併せると、債権者に債務者主張の解約事由があるとはいい切れず、また、仮に違反の事実があるにしても、その程度は比較的軽微であるから、抱き合わせ販売・混合使用問題等に基づいて本件契約の解約を認めるのは相当ではない(継続的供給契約の解消については前述のとおり解すべきである)。

なお、債務者は、最終主張書面において、アートビューティ小田原への地域外販売問題を取り上げているが、疎明十分とはいい難い(甲12によると、小田原店は、痩身美容だけを行っており、美顔営業は行っていないから、乙61添付№7の記載には疑問がある)。

八 以上によると、債務者は債権者に対し、発注商品を納品する義務を負うべきものであるところ、本件解約は無効であるから(個々の解約事由が不十分であることについては既にみたが、これらを総合しても、本件解約が有効であるとはいい難い。)被保全権利は一応認めてよい。

九 保全の必要性について

疎明資料によると、債権者は、長年にわたって債務者の商品を販売し、相当な宣伝費と労力をかけて市場を開拓してきたものであって、債務者の出荷停止により深刻な打撃を受けており、本案判決を待っていたのでは回復し難い損害を被ることになるものと一応認められるところ、債権者に現に生じ、かつ将来生じることがあるべき著しい損害を避けるためには、債権者に債務者から、本件契約の条件で、継続的にアザレ製品の供給を受ける契約上の地位を有することを仮に定め、かつ債務者に対し別紙注文品一覧表記載の商品を仮に引き渡させる必要があるというべきである。[甲8、9、11]

なお、債権者は、本件紛争を深刻に受け止め、債務者の販売理念を尊重し、アザレ製品の販売にあたると思われるから、債務者やその取引先に損害が生ずるおそれは少ないであろう。

十 結語

以上の次第で、本件申立ては理由があるから、債権者に対し、別紙担保目録記載の担保を立てさせて本件申立てを認容することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 佐藤嘉彦)

別紙 省略

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例